展示

装訂の技・美 ~和装本を中心として~

場所:図書館2階 閲覧室
期間:1994年9月

わが国における書物の仕立て様(装訂)は、中国から学びとったものです。 書物の古い形態が巻物であったことは改めて言うまでもありませんが、 年月を経過すると共に、保管の上から、使用上の便宜から、様々な装訂の仕方が 発達しました。

図書は、内容上から、和書・漢籍・洋書と三つに分類されることがありますが、 装訂上からは、和本・唐本・洋本と分類されます。

和本を中心に見てみますと、巻子本-折本-畳み物-旋風葉-粘葉装(胡蝶装) -綴葉装(列帖装)-袋綴という装訂の流れを知ることができます。 また、書物を保護するために、帙や函などがあります。

洋本では、アンカット本(フランス綴)や、革装本、特装本など贅沢で、 豪華な装訂も数多くあります。

今回は、こうした装丁の技と美を、和装本を中心に見ていただきたいと思います。


巻子本 折本 畳み物 粘葉装(胡蝶装) 旋風葉 綴葉装(列帖装) 包背装
袋綴 康煕綴 大和綴 掛物(掛軸) 書袋 押界 竹簡 木簡 その他

巻子本(かんすぼん)

巻物。巻軸。巻本。継本。手巻(中国の用語)。
書物発生の古い形で、 絹などの裂や紙を継ぎ合わせて、軸芯を添え、これに記載したものである。 書物の形態が種々簡便に発達した後も、大切なものは巻子本に仕立てられる傾向にあった。

『春日權現靈驗記繪詞』 高階隆兼画、鷹司基忠他詞書 
複製
春日權現靈驗記繪詞完成会 1927刊
『源氏物語絵巻』  徳川黎明会所蔵(国宝)の複製
講談社 1966刊

折本(おりほん)

巻子本と共に書物の装訂の古い形で、帖装の基である。
継ぎ紙を一定の大きさに折り畳んで、その前後に表紙を付ける。 つまり、巻子本を折り畳めばできるのである。 折本の表紙の付け方には一種変わったものがあり、後表紙の左右を長くとって、 前表紙の上に冠らせ、中央、もしくは左寄りの処で打ち合わせて、 その右端に紐を付けて巻き留めにしたもので、古経等によく例が見られる。 わが国に伝存する宗版経の原形を存するものにもこの形式のものが少なくない。
帖装。帖装本。法帖仕立。褶本。
『宝積経用品』 前田家本複製 尊経閣叢刊
本帖の料紙に用いた短冊は灰汁漉鳥子の種類で、紙質やや堅厚である。
これを一折に四枚づつ継立てて都合三十折とし、外に白紙六折を加えて
一帖に装うてある。
前田育徳財団  1937刊
『輿車図考』 故実叢書第2巻
吉川弘文館 明治33(1900)刊

畳み物(たたみもの)

絵図・年表・双六などを折り畳み、右上になる部分に表(前)表紙を、 また、左下になる部分に裏(後)表紙をつけ、一枚図を上下で保護する。
『中古京師内外地図』 故実叢書第18巻
吉川弘文館 明治33(1900)刊

粘葉装(でっちょうそう)(蝴蝶装(こちょうそう)),

料紙を半折して重ね合わせ、各紙の折り目の外側を粘付けにしそれに表紙を加えたもので、 その表紙の加え方は、前後を続けて一枚で包んだものもあり、 又、背のみ別紙(或いは布)で包み、前後各別に表紙を加えたものもある。
これは平安朝以来、帖装としては最も多く行われている想訂で、 発達の順序から言えば、旋風葉(次項参照)から転じたものである。 すなわち、旋風葉の毎折の折り目を切り離すと粘葉装の形となる。
これは折帖なる旋風葉とは違い、紙の表裏に文字を認めることができて好都合である。 従って粘葉装は旋風葉よりも料紙が厚手である。 恐らく粘葉は表裏ともに書写することができる料紙の利用度と、 継ぎ紙の煩わしさ等のため旋風葉から工夫せられたものであろう。
◆粘葉装
『法性寺殿御集』 前田家本 国宝 複製本 尊経閣叢書
法性寺関白藤原忠通の詩集
壽永2年の古鈔本
縦8寸3分、横5寸6分の粘葉装
料紙は堅厚な楮紙を用いる。
押界毎半葉6行あり。また各半面に淡墨の罫線を引いている。
前田育徳財団 1937刊

◆蝴蝶装
『粘葉考~蝴蝶装と大和綴』 田中敬著 
2冊(上・下)
下巻後半部分は蝴蝶装
巌南堂書店古典部 1932

旋風葉(せんぷうよう)

古い装訂の一。 折本から変化して工夫されたもので、 折本の背の部分を粘付けにし密着させ、 その背の部分を紙や裂で包み、 前後各別に表紙を加える。 又、表紙は前後が一枚の紙で包んだものもある。
本が開くと、袋状になった各葉がひらひらするので、 旋風葉の呼称が生れたものと思われる。 この旋風葉から「粘葉装」に転ずる。
旋風葉は、天台・真言の僧侶の間には江戸時代まで用いられており、 遺品も少なくない。

綴葉装(てっちょうそう)(列帖装(れっちょうそう))

若干の料紙を重ね合わせて半折一括りとし、数括りを重ねて、 これに表紙を添え、糸でかがったもので、 そのかがりの糸の結び目のたれを大量に内部のかがり止めの部分に残しているのが特徴である。 西洋式のノートブックと似た綴じ方である。
表紙は最初の括りの表側と、 最後の括りの裏側とに若干折り曲げて添付し、 その僅少の折目を本文の括りに綴じ込んである。
古人はこの綴じ方を粘葉装と区別して「鉄杖閉」と呼んでいる。 この綴じ方は平安後半から行われ、 清少納言の枕草子に「うすやうさうし、むら濃の糸してをかしく綴じたる」等と言っているのは、 これであると思われる。
『こけ衣』 前田家本 複製 尊経閣叢書 
原本は縦七寸七分五厘、横五寸五分の列帖装4冊本。
料紙は楮紙金襴裂地の表紙の中央に、朱地金泥雲形の模様ある題せんを押し、
これに「こけ衣」各冊それぞれ春、夏、秋、冬と記す。
前田育徳財団 1939刊

包背装(ほうはいそう)

包み表紙。くるみ表紙。車草子(双紙)。
料紙を二つ折りにして重ね、 綴じ代の部分を紙捻で下打(下綴)をして、 一枚の表紙でくるみ、背の部分を粘付けにした装本。
中国で元代から明代の中頃にかけて行われ、 わが国でも鎌倉中期から向こうの影響でこれが多くみられ、 読書伝存の間に表紙(殊に背の部)が損じ、 後に糸綴の袋綴に直したものが多い。

袋綴(ふくろとじ)

線装本(中国の用語)。
二つ折りにした料紙の右側綴じ目の方から見て、袋状になっていることによる呼称。 別称「唐綴」。
この綴じ方は中国の明代に起こり、 それらを明朝綴と言う。 わが国へも影響を及ぼし、 五山版以降和本の多くはこの装訂が用いられた。
◆袋綴
『海の幸』 石寿観秀国編、勝間竜水画
2冊(上・下)
1778(安永7)刊

◆唐本・明朝綴
『文選』 蕭統編
正統文学の優れたものを集大成することを意図して編纂されたもの
後世、知識人の必読書とされ、わが国でも平安時代に流行。

康煕綴(こうきとじ)

袋綴の四つ目の穴(四針眼)の上下端の部分の綴じ代にもう一つ穴(副針眼)をあけて六つ目にして糸を通し、 角のまくれを抑えるように配慮した綴じ方。
中国清代、康煕年間にこの綴じ方が多く行われるようになったとの推測から生じた呼称であるという。
『崇文叢書』 「定本韓非子纂聞」「論語會箋」 など
崇文院 昭和3~10年

大和綴(やまととじ)

唐綴(袋綴)の対。
わが国で始められた装訂の一様式で、 料紙を綴葉装のように重ねて綴じているものもある(尾州徳川家蔵正嘉二年写河内本源氏物語等)が、 通例は袋綴と同様な重ね方をして、 紙捻等で下綴じを行った上に、前後に表紙を添えて、 右端を二箇処、結び綴じにしたものである。
この綴じ方は、簡便にできるので、 今でも身辺の書き物等を綴じる際、 リボンなどを用いて装訂している。 このやり方は平安末期から行われている。
◆四つ目綴
『青棲美人合姿鏡』 安永5年 蔦屋重三郎刊の複製
川勝春章、北尾重政画
袋綴じ和本 木版本
吉川弘文館 1917刊

◆大和綴
『大正天皇御製歌集』 秩(丸秩)入り
1945刊
『好古類纂』 第2編第1集 諸家説話
好古社 明治36年刊

◆仮綴
『北國一覧冩』 長谷川雪旦写生画稿 
稀書複製会刊行書
天保2年晩夏より初夏へかけて北国漫遊の際、 地理風俗等について写生した直筆の畫稿。
版刻の機会のままの草稿で、仮綴になっている。
米山堂 1925刊

◆左綴
『ろしやのいろは』 イワン・マホウ著
中本 四つ目綴(左綴) 萬延2年刊の複製本
日本国内でロシア人の手により公表した日露対訳書の始めてのもの。
函館で出版。著者は函館領事館付の司祭官。
米山堂 1927刊行

掛物(かけもの) 掛軸(かけじく)

書画等を掛けて鑑賞するように軸ものに仕立てたもの。
その表具の仕方には様々の様式があり、 また、普通には表具に古代裂などを用いて古風に仕立てることをよしとしている。
『熊野懐紙』 陽明文庫蔵 国宝 複製
寂連筆 歌題:古谿冬朝・寒夜待春
講談社 1970刊

帙(ちつ)

套・書帙・套子・書套。
書物を保護するために包むくるむもの。
その資材によって紙帙・竹帙(帙簾)・函帙等と呼ぶ。 現在の普通の帙は、 厚紙を芯にして紺無地の木綿を張って作る。 また、書物の帙の数をかぞえることばにも帙を用いる。

書袋(しょたい)

袋。 書物を入れる紙製の袋。
帙の代わりに書物を保護するために簡単に作る。
江戸中期以降、刊本に印刷した紙のおおい袋を添えることが行われたが、 それにはやや厚い紙を用いている。 それはまた、小口が空いているものなど様々である。 なお古く、裂製の文書袋もあった。
『客衆肝入子』 山東京伝著
天明6年刊の複製本 稀書複製会刊行書
半紙半載本 書袋(掛袋)入り 四つ目綴
米山堂 1925刊

押界(おしかい)

白界。
墨などで界線を施す代わりに、 箆様の用具でから押しをして罫とするものである。 厚様の貼装本に両面書きを行う場合などに多く用いられている。

竹簡(ちっかん)

竹製の簡策。
紙が普及する以前の中国の最も古い書籍の形態。
木や竹の長さ20~30cm、幅2cmくらいの細長い薄片(簡)に墨で文字を書き、 これをなめしがわや麻糸で束ねたものを簡策という。 木でつくられてものは木簡という。
秦・漢に盛行し、後漢の中ごろまで使用されていたようである。

木簡(もっかん)

細長い板片に墨書した古代の記録類。
中国で紙が発明され使用されたのは後漢時代からであるが、 それ以前に文字を記すには、 甲骨、金石、布帛(ふはく)のほか、前記の竹簡や、 またこれに似た形の木片が用いられた。 木のものを木簡と称した。
簡の大きさはさままざであったようだが、 例えば長さ30cm、幅2cm程度のもの、文字は1~3行に記されている。
日本においても、 1961年平城宮跡の第5次発掘調査で発見され、 木片に墨書する記録が、 紙の使用と並んで8世紀に行われていたことが判明した。

その他

◆貝多羅(ばいたら)
スリランカの経典
梵語(PATTZA)、葉の意。
古くインドで多羅の樹葉を短冊形に切りそろえ、 仏の説教を書きしるした。 これを貝葉経典と称する。