展示

福田 敦志講師 (学芸学部一般教育)


『アイデンティティと共生の哲学 [増補]』(平凡社ライブラリー)
   花崎 皋平著
      平凡社;2001


哲学の本を読んで泣いたのは初めてだった。 あふれる涙を止めることができなかった。 「この道で生きていきたい。」私は、研究者としても人間としても、 この本との対話を通して、私の生きる道を選び取った。

 「二〇世紀はじめのスローガンは進歩だった。 二〇世紀末の叫びは生存ということだ。つぎの世紀からの呼びかけは希望である。」

 本書に収録されている、 「水俣宣言—希望の連合」(1989年)の冒頭の一節である。

 すでに21世紀を生きはじめている私たちは、 「希望の声」を発することができているであろうか。 絶望による沈黙のなかに閉じ込められているならば、 そのなかから私たちは、何をよりどころにして声をあげることができるであろうか。

 「アイデンティティ」と「共生」という問題を、 まさに「と」でつなぐ論理に学びながら、 それぞれの思索を深めていただきたい。私たち一人ひとりが、幸せに生きていける社会をつくっていく主人公であるはずだから。


『情報消費型社会と知の構造』
   中西 新太郎 著
      旬報社:1998


あなたは、学習とは「一人でするもの」と思っていますか。 学習のプロセスに、他者は必要ないと思っていますか。正 しいことは、自分以外のところにあって、 正しさを確かめる営みは無駄だと思っていますか。 何よりも、大量の情報が私たちを取り囲んでいる現代生活のなかで、 自分たちで何が正しいのかを探究するよりも、 何が正しいのかを手っ取り早く教えてほしいと願っていませんか。

 私たちが学んできた知識とは一体何であったのか。 その知識をえてきた学習の在り様はどうであったのか。 これらのことを批判的に検討していく際に、ぜひとも傍らにおいておきたい本である。

 とりわけ、教職を目指す方々には、この本と対話しつつ、 自らの授業観や学習観を見つめ直してほしい。


『稲の旋律』
   旭爪 あかね 著
      新日本出版社:2002


親の期待に応えようと背伸びをする子ども。 親の喜ぶ顔見たさにがんばってきて、いつしか、 親とはかかわりのない自分の喜びを見い出せなくなってしまう子ども。 失敗を恐れるあまり、できそうもない道には巧妙に足を踏み入れないようにする子ども。

 この小説は、そうした生き方の結果として引きこもりへと至った一人の女性の、 彼女に秘められたちからの回復のストーリーである。

 この回復のストーリーには、現代の農業が抱える困難と希望、 「家族」というものに由来する苦悩、そして小さな恋の物語がちりばめられ、 重厚な響きを奏でている。

  稲刈りの季節が過ぎ去ろうとしているこの秋の夜長に、主人公とともに、 自らのなかに眠るちからを見つめてほしい。


『クラバート』
   オトフリート, プロイスラー 著;中村 浩三 訳
      偕成社:1980


 『ハリーポッター』シリーズを読み終え、 第四部の刊行を心待ちにしているあなた。 『指輪物語』や『ナルニア国物語』、さらには『はてしない物語』ともすでに 出会っているあなた。

 ファンタジーのまだ見ぬ傑作は、あなたを待っている。 その一つとして、『クラバート』を薦めたい。

 ドイツの一地方の伝説をモチーフにした、長編ファンダジー。 帯に掲げられたメッセージ、「愛は魔法を超えるか!」。 このメッセージをあなたはどう受けとめるだろうか。

 ちなみに作者プロイスラーは、あの『大泥棒ホッツェンプロッツ』の作者でもある。 『ホッツェンプロッツ』とは趣を異にした作者の作品世界を味わってみるのもいいのではないだろうか。