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『漂泊 日本思想史の底流』(角川選書)    目崎 徳衛 著       角川書店:1989


堀 信夫教授 (学芸学部一般教育)

人を漂泊に駆り立てるのは、 得体の知れないある奥底からの衝動である。 そんな思いに促されて漂泊の旅に出かけた古人の数は少なくない。 曰くヤマトタケル、曰く在原業平、さらには能因・西行・宗祇・ 芭蕉等、 数えあげればたちまち十指に余るであろう。 この本はそんな日本人の心の底を流れてやまない漂泊の思いの、 思想的位置付けを試みたものである。

著者は本書の中で、 「語の本質的意味で“漂泊”とは精神の営みである」と言っている。 そして歴史上の著名な漂泊者たちの、その内面をみごとに描き尽くしている。 歴史家であると同時に有力な俳人(志城柏)である著者にして、 はじめて可能になった画期的労作である。