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『猟銃・闘牛』(新潮文庫)    井上 靖 著       新潮社:1966


奥西 利勝教授 (人間科学部応用社会学科)

井上靖が大学(学部)を卒業したのは29才、 芥川賞を受賞して文壇デビューしたのが43才であった。

この青春の彷徨と模索や、新聞記者の社会人経験は、 市民型・井上文学のベースとなり、結実し、開花した。散文詩あり、 女性心理小説あり、歴史小説あり、海外小説あり、自伝小説あり、 老年心理小説あり、美術評論あり、という多彩で、華麗な作品群から、 一冊を選ぶのは難しい。 「最初の作品にその作家のすべてがひそむ」といわれる。 その『猟銃・闘牛』は、仕事や愛情の渦に巻き込まれながらも、 自分のスタイルをかたくなに崩そうとしない中年男の心情を描いたものである。