展示
「虐待と尊厳 -子ども時代の呪縛から自らを解き放つ人々-」
穂積 純編
高文研 2001
関屋:367.6||H97(359266J)
石川 義之(応用社会学科)
本書は、子ども時代に実の兄から性的虐待を受けその後遺症に苦しみながらも生きぬいてきた穂積純さんが編んだ迫真のアンソロジーである。本書には、子ども虐待のサバイバーたちの苦悩と、しかしその苦悩を乗り越えることによって得られた栄光とが凝集されている。
本書は、決して虐待経験者のみに意味を持つ本ではない。虐待といえるほどの経験は持たないまでも、人は誰でもその生育の過程で心に傷を受けている。そして、その心の傷は、無自覚のうちに日常生活過程で様々な障害を発現している。その意味で本書は普遍的な意義を有している。無意識のうちに抱えるトラウマとその影響を意識化し、それを乗り越えることによってのみ掴み取ることの出来る人間としての成長の物語で溢れる本書は、全ての読者に対して人間の範例(パラデイグマ)を呈示するものとなっていると言えよう。