展示
「姥ざかり花の旅笠―小田宅子の『東路日記』―」
田辺 聖子
集英社 2004(集英社文庫)
小阪:915.5||T1(344188E)
中 周子(国文学科)
ご存知の方も多いと思うが、著者の田辺聖子氏は本学の卒業生である。上品な大阪弁を駆使した洒落たエッセイや、読むと心が明るくなる小説、日本の古典文学に関する並々ならぬ愛情をもって書かれた作品の数々…、田辺聖子氏の作品はどれも面白い。
さて「姥ざかり…」の主人公は江戸時代に生きた小田宅子という九州在住の一主婦である。彼女は52歳の時、商家の主婦として、また母親としての役目を終えた時期に、友人と共に伊勢・善光寺詣でを思い立つ。144日の長旅である。各地でさまざまな人情と風俗にふれ、折々の心境を和歌に詠み、彼女は『東路日記』を書いた。旅先の出来事の描写は的確で面白く、歌の調べは美しい。一主婦の旅日記というよりも、江戸時代の紀行文学として再評価されるべき作品といえよう。
本書は、そのような『東路日記』を丹念に読み解き、軽妙な文章で、現代人におよそ想像もつかない、江戸時代の女たちの旅の様子を生き生きと再現してくれる。随所に、著者の江戸時代の文化や風俗に対する真摯な探求心が満ち溢れている。本書を読むと、田辺聖子氏という名ツアーコンダクターに率いられた「宅子さん」御一行と共に、珍しい風物や様々な人との出会いを楽しみつつ、恐ろしいアクシデントを果敢に乗り越えつつ、百数十年前の時空を旅しているような心持ちになる。そして、年齢を重ねてゆくことの楽しさと、いくつになっても「花ざかり」のように美しくあるための秘訣を教えてくれる書である。
●本学所蔵本は、単行本(2001年刊)