展示

「鳥が教えてくれた空」

三宮 麻由子

NHK出版 2002NHKライブラリ146

  関屋:B||6310(392980J)

佐々木 (心理学科)

 

 鳥を見るのを趣味にしている私が、標題の「鳥」の字に惹かれて手にした本ですが、読み進んでいくうちに、それは私が期待したような鳥の本ではないことを悟りました。著者は「四歳のとき、一日にして失明した」盲人で、幼い頃からよく耳にしていたスズメやシジュウカラの鳴き声に対する興味が広がって、探鳥行事によく参加するようになり、今では相当高度なバード・ウォッチャー(いや、バード・リスナーというべきか)の域に達していることを伺わせる。しかし、それは単にバード・ウォッチャーたちを喜ばせるだけの本ではない。

 

  鳥声を聞き分けるうちに、私はそれらの声が立体的に伝えてくれる景色を把握し、その山の自然度をも理解するようになった。そしていつしか、鳥を聞く要領で植物のたてる音にも耳をそばだてはじめた。(本書P.32)

 

 私たちはとかく盲人の住む世界を、健常者の五感から視覚だけを差し引いたもののように想像しがちであるが、実際はそんな単純なものではないことが、この本からよくわかる。

 著者は種々の体験をとおして触覚や味覚に目覚めてきた経緯を語る。そこには私たちの予想や想像を超える豊かな世界が広がっている。そして、その豊かさは、私たち健常者があまりにも安易に視覚偏重の生き方に終始しているがゆえに見失っているものであることを思い知らされる。

 視覚障害者の世界を知ることは、健常者がこの人たちを支援するうえでより適切な方法を会得するのに有益なだけではなく、ひるがえって健常者自身が失いかけている「世界の豊かさ」に気付かせてもらえる点でこの上なく有益であると思う。