展示
「釣り上げては」
アーサー・ビナード
思潮社 2000
関屋:911.56||B1(392987G)
歌野 博(人間科学部 教養教育)
言葉使いが階級(クラス)を超える事情は、ミュージカル「マイ・フェア・レ ディ」がつとに証明済みだが、魔法使いならぬ言葉使いたち、すなわち詩人のつむぎ出す言葉は魔法のように世界を超える。ここに稀有の詩人が誕生した。ミシガン生まれのビナードは、日本暮らしの日常を日本語でみずみずしく描き出す。リービ英雄の日本語小説、紀行に感じた驚異に似た、それ以上の衝撃である。散文ならまだしも、韻文で証明された言葉の高い質に感動を覚えるのも、日本人しか日本語の玄妙な味わいは感得できないとする、つまらない偏見にわざわいされているていたらくを承知で、衝撃を記したい誘惑は去らない。(逆の例に多和田葉子のドイツ語小説があるけれど・・・)
中原中也賞を受賞したこの詩集を、中也は彼方の世界で心ゆくまで嘉していることだろう。ちなみに、タイトルは「記憶は ひんやりした流れの中に立って 糸を静かに投げ入れ 釣り上げては 流れの中へまた 放すがいい」